最近の不登校相談では、一人っ子家庭の相談が多くなっている。兄弟がいないので、小さい時から大事にされ、喧嘩することも誰かと争うことなどない無刺激の中、安全地帯に座している一人っ子、子供の減少傾向はここでも顕著に表れているようだ。
自分から何かにチャレンジしようとしても、親からはストップがかかり、自分の意図した方向に向かわず気が付いたときは、自分は何をやっているのだろうと、力が抜けた状態になっている。
子どもが段々成長し、思春期になると心のモヤモヤは大きくなってくる。子どもは世間の情報や仲間からの情報に敏感になっている。このまま学校に行くのはどうなのだろう、ハタっと考えてしまう。まして家では天下だったのが、学校という集団の中では自分の感情を抑えてしまうので、かなり精神的に疲れる。そんな子どもの姿を見れば親としても、心配にならざるを得ない。しかし親はここで、じっと我慢して子どもを見守ろう。こどもの方から言葉を掛けてくるまで。また、子どもが不機嫌になり当たり散らしても、さらりと交わす術を身につけよう。と、同時に出てくる言葉が不退転である。
子どもが甘えて当たり散らす、部屋に黙って閉じ籠もってしまった時、たださらりと交わしていれば良いだけではない。ここで親としての判断が求められる。親として絶対にここは引けない、子どもに分かって欲しいと思ったら、正面から子どもと対峙すべきだ。
以前著名な心理学者が、不登校の親と相談した時の話である。不登校の子を抱えた親の訴えは、子どもが毎日父親に「今日はこれを買ってきて欲しい。そうしたら明日は学校に行くから。」と、登校を条件に日々お土産を要求していた。ある日、非常に高価なマウンテンバイクを要求された父親は、意を決して子どもに自分の給与明細書を見せ、家の生活状況を話した。「今、俺にできることはここまでだ。お前が納得できないのなら、この家から出て行ってもかまわない。」と、言ったそうだ。親としては苦渋の決断だと思う。次の日、子どもは一人で自転車屋さんに行き、自分が貯めていたお金を全部出し、「中古で良いのでこの金額で帰るマウンテンバイクを買いたい。」と、店主に相談したそうだ。店主は古いマウンテンバイクを修理し、子どもに売ってあげた。彼は、古いマウンテンバイクを大事に丁寧に扱い、次の日から学校に登校し始めたそうだ。
父親からその話を聞いた先生は、父親が息子と不退転で対峙したことが、息子の心に響いたのだと言っておられた。
この話で大切なことは、ここは絶対に譲れないと思ったら、正面から不退転の覚悟をもって、子どもとしっかり対峙すること、そのことを頭に入れ、粘り強く子どもを見守って欲しいと思う。
子どもは、親が不退転になって真剣に訴えることは、必ず心に響くものだ。
2024/8/19
21世紀教育研究所:向井幸子
文責:21世紀教育研究所 向井 幸子
向井 幸子
臨床心理士
向井幸子プロフィール(通称さっちゃん先生)
1993年不登校という言葉もまだなかった時代、まだ日本で黎明期のオルタナティブスクール・スタッフとして勤務。そこで友人、教師、学校、家庭、自分自身などで悩み葛藤する数多くの生徒と出会い、臨床心理士として活動を始め、延べ数万人の支援を実施。
その後、数多くの実績を買われ公立小・中学校の教員のためのスーパーバイザーとして活躍し通信制高校カウンセラーを経て現在NPO法人21世紀教育研究所シニアカウンセラー